ちょっと黙って心臓
Cace.4:今日の花岡くん
残業を回避できて、特に用事もない平日。

私はいつも、仕事帰りにある場所へと向かう。



「うふふふふ久しぶり~~きなことあんこー! 元気だった~? 私の顔忘れてない~?」



溢れ出るうれしさを隠そうともせず、目の前の“その子たち”に笑顔で話しかける。

至福の時間を過ごす私に対して、横から抑揚のない声が飛んできた。



「あの、サトコさん。いつも言ってますけど、ウチの売り物に勝手に名前つけないでください」

「あっジェームズとエリザベスも元気いぃ~??」

「………」



あえて聞こえないフリをすると、同じ方向から深いため息が耳に届く。

ため息の主、花岡くんは聞く耳持たない私の説得を諦めたのか、陳列棚の整頓を再開した。


ここは私の職場と駅との中間地点にある、こじんまりとしたペットショップだ。

最初に名前を呼んだきなことあんこっていうのは、黄色と黄緑色が鮮やかなセキセイインコたち。

その後に声をかけたジェームズはジャンガリアンハムスターで、エリザベスがゴールデンハムスター。

このペットショップにいるほとんどの生き物たちに、私は勝手に名前をつけている。

だってねぇ、こんなに頻繁に会うのに、『ネコちゃん』とか『犬くん』とかじゃ、ちょっとよそよそしいもんね?
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