ちょっと黙って心臓
今日も相変わらず、淡々とした受け答えな花岡くん。

私の見立てでは、イマドキな草食系男子。たぶんあんまり女の子に興味ないんじゃないかな。若い女性のお客さんにも、さらーっとした態度しかとらないし。

でも彼、顔はかっこいい部類に入るんだから、営業スマイル覚えたらもっとこのお店繁盛すると思うんだけどな。主に花岡くん狙いの女性客とかで。



「………」



そこまで考えて、ちょっと胸のあたりがもやっとする。

……でもそうなっちゃったら、こんなふうに気軽に寄って……だらだら話とか、できなくなっちゃうな。

それは、嫌だな。



「サトコさん?」



急に押し黙った私を不審に思ったのか、カウンターの中で作業していた彼が私の名前を呼んだ。

一瞬なぜかぎくっとして。だけどそれを表には出さないように、今度はカウンターへとパタパタ近付く。



「ね、ねえ、花岡くんちってネコ飼ってるんだっけ?」

「そうですけど」



ノートに何か書き込みながら、顔を上げもせずに答える。

そんな彼の態度はいつものことなので、私は特に気にするでもなく続けた。



「いいなー、ネコちゃん。マンチカンとかかわいいよねぇ」

「ああ、人気ですね」

「ちなみに花岡くんちのネコちゃんは?」

「ウチはスコティッシュ・フォールドです」

「えっ、あの耳が折れてて全体的にまるっこいネコちゃん?!」



私が食いつき気味にそう言った瞬間、花岡くんがボールペンを置いて「そうですけど」と言いながらノートを閉じた。

ようやく視線が合って、私はずいっとカウンターに身を乗り出す。
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