ちょっと黙って心臓
四六時中一緒にいる俺たちは、大学の奴らからも『あのふたりは付き合っている』と認識されている。

……俺としても、バス停でのあのキスで、お互いの思考のすり合わせは完了したと思っていた。

実際、芽衣は決して上等とはいえないおつむを今までにないくらいフル回転させて勉強に励み、そこそこレベルの高い東京の大学に合格できたのだ。

俺と同じ、大学に通うため。俺と、離れないようにするため。

たぶん、自惚れじゃなく……そこまで俺を、想ってくれているということ。


こちらとしても、今さら芽衣と離れるなんて冗談じゃなかった。

だから、受験生だった去年1年間は、勉強に集中できるようなるべく彼女に触れないように我慢してたし。

会えない期間が続いたって、合格した後のことを考えればなんとかやり過ごすことができた。

そしてこの春、晴れて俺たちは大学に進学し、それぞれひとり暮らしを始めて。

ようやく、今までの分も芽衣にさわりまくって、めくるめく官能の日々がスタートすると思っていたのに……。



「……シン、ココア冷めちゃうよ?」

「………」



この状況でテーブルの上のマグカップの中身を心配する彼女に、もはや尊敬の念すら覚える。

あたりまえのようにそばにいて、ふたりきりなのも気にせず、ためらいなく俺の部屋に来る無防備な芽衣。

今日だって、あまりにものほほんと俺のベッドの上でマンガを読んでいるものだから……つい、いろいろなものが爆発して押し倒してしまった。
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