ポケットにキミの手を

俺は彼女をソファに座らせて、自分はその前にあるテーブルに腰掛けた。
ゆっくり頬を撫でると、菫はこわばったまま視線を左右に動かす。


「言ってみろって」

「き、昨日」


一言吐き出せれば、後はするすると出てくるだろう。
促すつもりで肩を撫でると、彼女の瞳と声が潤んできた。


「江里子とランチ食べに行ったんですけど。……なんか話してたら、私って司さんに何にもしてあげれたないんだなぁって痛感するばっかりで」


舞波さんか。彼女は自分の感覚を基準にするところがあるからな。
でも新婚の彼女が積極的に家事に精を出すのはある意味普通のことだし、俺と一緒に暮らしているわけでもない菫が、同じように出来ないのも当たり前のことだ。


ポツリポツリ話し出す彼女の肩に腕を回して、柔らかく抱きしめる。


マイナス思考の彼女が、他人の言葉ですぐ揺れるのは、今までも同じだったけれど。
今日は少しだけイライラする。

そんなに自信が持てないのはどうしてだ?

好きだって言葉でも態度でも伝えてる。俺の言葉は信じられない?
これ以上どうやって気持ちを伝えればいいのか、俺には分からない。


「じゃあ逆に聞くけど、菫は洗濯とかができれば安心するわけ?」

「……それは」

「料理して洗濯して掃除して。俺の身の回りのことをなんでもできれば満足?」


俺のキツイ口調に、彼女は怯えた表情になっていく。
追い詰めてると自分でわかってるけれど止められなかった。

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