ポケットにキミの手を
*

仕事が終わりに彼女の携帯にかけると、慌てふためいたような声が聞こえてきた。


『あ、司さん。きゃああ』

「どうした、大丈夫?」


カランカランと何かが落ちたような音もする。どうやら調理中のようだ。


『ごめんなさい。フライパンを落としてしまって』

「って、危ないじゃん。やけどはしてない?」

『大丈……っつ』


おいおい、全然大丈夫じゃなさそうだ。


「すぐ行くから、水でちゃんと冷やしておいて」

『はい』


電話を切って、走りだす。タクシーでも、と思うがおそらく電車に乗ったほうが早いだろう。

怪我をさせるくらいなら、夕飯を作って欲しいなんて言わなければよかった。

彼女のアパートの最寄り駅に着き、徒歩十分の距離をそんな後悔と共に走り、アパートの外観が見えたあたりで合鍵をポケットから取り出す。

彼女の部屋の鍵を開け、勢いよく扉を開くと、いい香りが漂ってきた。


「あ、おかえりなさい、司さん」

「菫、……怪我は?」


息切れしながらそう問うと、彼女は申し訳無さそうな顔をして近寄ってくる。


「大丈夫です。ちょっと火傷……って言っても赤くなった程度で。走ってきたんですか? ごめんなさい」

「なんで謝る? それより見せてよ」


伸ばされた手を掴んで見ると、右手の人差指の先が赤くなっている。

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