ポケットにキミの手を


「だって。料理作って待ってるって、新婚さんみたいだから。ちょっとだけそんな気分になりたいなって思ってつけてたんです。そしたら電話ががきて。まるで……」


司さんに見られてたみたいで恥ずかしくって。


続けられた言葉に、胸を鷲掴みにされる。

負け犬ジュエリーだったはずのその指輪を、君はどれだけ幸せにしてくれるんだ。


「ちょっとだなんて勿体無いんじゃない?」

「え?」

「俺も新婚気分になってみたいな」


言い終える前に彼女を腕で囲む。小さな体は、壁に背中をつけて小さく身じろぎをした。


「あ、あの」

「菫を食べたいな」

「ちょ、あの、ご飯は」

「後で食べるよ」

「でも」


すり抜けようとする彼女を捕まえて、唇を塞ぐ。


「……逃げるなよ」

「でも、せっかく……んっ」

「眼の前に極上のごちそうがあるんだから仕方ない」


火傷の痕を再び口に含んで、抱きしめながら寝室へ向かう。
美味しそうな匂いに少しだけ罪悪感は感じるけど、今は君を堪能したい。

菫によって幸せのアイテムに変えられた指輪を、そっとテーブルの上に置き、愛しい困り顔の彼女をそっと抱きしめる。

毎日でもこうしていたい。
俺はそう思っているけど、彼女はどうなんだろう。

せめて一定の交際期間を経て。
そう思って我慢している衝動を、いつまでおさえておけるのか。
俺はあまり自信がない。




【fin.】




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