春に想われ 秋を愛した夏


秋斗への憤りをどうしたらいいのかと落着かなくなっていると、ティーパックの紅茶を淹れてくれた春斗がカップをテーブルに置いた。

「インスタントだけど」

冗談を言って屈託なく笑っている春斗の胸の内を考えると、私はとても複雑な気持ちになっていった。
すると、春斗が困った顔をする。

「そんな顔、しないで。香夏子には、笑っていて欲しいから」
「だけど、私。何にも知らないで、春斗のこと……」

しゃべり始めた私に向かって、静かに目を閉じて首を振る。

「もう、いいんだよ。香夏子が自分を責める必要なんかないんだよ」

閉じた目を開けたあとには、やっぱり包み込むような穏やかな笑みをたたえていた。

「香夏子に久しぶりに逢った時さ。本当に奇跡だって思ったんだ。きっと、今なら香夏子に気持ちを伝えて、僕は香夏子を幸せにできるって本気で思った。けど、それって、ただの思い上がりだった……」

春斗が俯き、紅茶の水面を眺める。
湯気の向こうに何かを探すように、じっと見つめている。

「野上さんちでパーティーした日。僕、香夏子に訊いたのを憶えてる? 秋斗に逢った? って。あの時僕は、香夏子を試したんだ」
「え?」

「実は、香夏子が戻ってくる少し前に、秋斗から電話があった。香夏子の幻を見たって。珍しく結構、酔っててさ。僕、何言ってんだよって笑い飛ばしたんだ。香夏子とこうして逢っているっていうのに、僕は何も知らないふりをしたんだよ。そのあとも、香夏子が秋斗といるところを何度か見てきたのに、僕は知らないふりを通してきたんだ」

そうだ。
あの時春斗に訊かれて、私は嘘をついたんだ。
逢っていないと……。

「本当はその時から解っていたんだと思う。香夏子が僕を見てくれないことを。今も秋斗を想っていることを」
「はると……」


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