月夜見ヴァーメイル


私や家族は、悲しんだ。

お祖父ちゃんの子であるお母さんは、一日中泣いていた。

だけど私は恐くて、恐くて仕方なくて、ベッドから出れなかった。

だって、家の庭や台所、お祖父ちゃんがいる部屋にも、いろいろなモノがうろついていたから。

私の部屋にもいた、いたからベッドの布団にくるまって出ることも出来なかった。


小学生の私には、頭から角が生える子供やカッパ、尻尾が三本ある話す猫は、とても恐かった。


だけど小学生の私でも分かった、私はお祖父ちゃんの『目』を貰ってしまったって。

お祖父ちゃんが見ていたモノが私にも見えてしまうようになったって。


今思えば、見えてなかった時もいたんだから、見えた途端そこまで怖がらなくたって良かったじゃん、と思っている。


「では、授業はここまで」

「きりーつ、」

気付いたら授業が終わっていて、私は焦りながら急いで立ち上がった。

「れーい」

学級委員の挨拶を耳に、ボサボサになっている髪を直す。

「くすくす、髪ボサボサー」

「本当だー」

こちらを指差しながらくすくす笑う着物の子供達。

私はじとりと睨みながら、ぶすっと頬を膨らました。


「プッ、なんて顔してんだよ」

「あっ涼(リョウ)くん」

「変顔披露しちゃってさ、馬鹿だろ」

「変顔じゃないよ。睨んでたんだよ」

「誰をだよ」

「……だ、誰って、そりゃあ」


誰を睨んでたって言えばいいの?
どうしよう、言わなければよかった。

おろおろと慌てる私を涼くんは意地悪そうに見つめたあと、

「プッ、くくく。もういいから、美影(ミカゲ)。相変わらず馬鹿だもんな、お前」

「うるさいよ涼くん」

少なくとも、私は涼くんより馬鹿じゃないからね。

ふんと鼻で笑うも、大人の対応をとるために相手にしなかった。

私のほうが涼くんより大人だから。

子供は仲良くお外で遊んでろ。

「まあ、ミカゲみたいなお子様は大人しく、お人形遊びでもしてろよ」

「おっ、おっ、お子様ああああっ?!」

「そうそう。お人形と仲良く手繋いでろ」

「なっ!私は涼くんより子供じゃないから!そういう涼くんの方が子供なんだからね?!仲良くお外で遊んでろ!」

「あー、はいはい。お外で遊ぶのはもう少し待ってましょーね?ミカゲちゃーん」

「きいいいっ!涼くんの阿呆!馬鹿!」


耳の上で結んでいる、自身の二つ結びの髪を振り乱しながら涼くんに詰め寄る。

短めの黒髪に少し焼けている健康的な肌、笑うと笑窪ができるツルツルの頬につり目気味の二重の目。


バレーボール部の彼は、小さい頃の泣き虫涼くんから変わりに変わり、今じゃ女子の人気の的となっている。

く、悔しい!

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