真紅の空
「差が、なかった?」
「はい。私が目にした記録では」
「じゃあっ、じゃあどうしてあなただったの!?」
どうして?
別に、あいつのほうがそうなればよかったなんて思わない。
そもそも、その風習がおかしいんだもん。
どっちがそうなるべきかなんてそんなの考えられない。
だけど、それでもそう思わずにはいられない。
どうして?
どうしてこの人だったの?
なんで・・・?
「どちらが、父上に好かれていたか。
それが、暁斉様と私を分けた決め手でした」
「は?」
「父上は私がこの風習のことを理解していたのを
知っていたのです」
「そんなの・・・理由にならないじゃない」
「いいえ。充分です。私がこの事実を知り、
恥ずかしながら間引かれることを恐れて過ごした
という私自身が、堪らなく憎かったのだと思います」
少しだけ伏せられたその瞳が揺れる。
あたしは手に力を込めて口を開いた。
「それでも・・・貴方はここまで・・・?」
「父上にとって、同じ技量を持つ私を間引くというのは
自己の力を失うこと。だから私に刀を向けられることはなかった」
「それって、ただ貴方を利用したいってだけでしょ?」
「その通りですね。それでも私は、それが嬉しかったのです」
「え?」
「この世に生きながらえ、そして結城家のもとに置いていただけること、
そのことについては父上の計らいに、有難く思っております」
「そんな・・・っ」
「こうして、私は春仁という名を殺し、
暁斉様の一文字を頂戴した“則暁”を名乗ることになりました」
暁斉と、則暁。
彼らは双子。
事実を知らず上に立つ弟と、
全てを知り、一人孤独に生きてきた兄。
同じ血を分けた双子なはずなのに
どうしてこうも違うのかな。
どうして、違っているのかな。
どうして・・・。