北十字学園探偵部
のぞみはポータブルレコーダーを机に置いてスイッチを入れた。

私はバックヤードユニオンのロッカーの中の用具入れにこのレコーダーを持って忍びこんでいた。

聞き終わると、しばらく牧野は何もいわなかった。

「先生、これさえあれば教頭の陰謀を崩せます。これを持って正しいことをして下さい」
のぞみはポータブルレコーダーを牧野に渡した。

「そうか、そうだったのか。何て汚いやり方なんだ。教師のやることじゃない。こんなことになっていたとは……」

牧野は手を震わせた。

「先生。人ほど恐ろしいものはありません。人ほど汚らしいやつはいない。しかし先生、人ほど誠実なものはきっとないでしょう」
優介がいった。

「そうだな。お前のいう通りだ。まったく、俺ときたら生徒に教わってばかりで、どっちが教師なのか分からなくなる」

「そんないい方はよして下さい。俺たち探偵部はただ事件を調べただけです。事実を得ただけです」

「ふっ。お前は俺が見てきた中でも、とびきりかっこいい男だ」

「もちろん、そのつもりです。俺はハードボイルドですから」

「ハードボイルドか。なるほど。お前進路は決めたのか?」

「一応大学には進むつもりです」

「その後は?」

「探偵になります」

「なるほど。結城は?」

「私は大学にいって心理学を専攻するつもりです」

「そうか。俺はその〝正しいこと〟というのをこれからやりに行く。学園長にこれを聞かせにな」

牧野は部屋を出て行った。

その時、そっと振り返った。

「おい、今の気持ちを忘れるなよ。毎日毎日疲れた顔をした大人になんかなるなよ。言い訳ばっかり考える大人になんか絶対になるな。信じる道を堂々と歩くんだ。俺はそれができなかったばかりに、今になって悔やむ。でもお前達と過ごした時間は本物だった」
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