【完】こいつ、俺のだから。





「……もういいよ。
もう、お前が笑ってられるんならなんでもいいから……」



耳もとで囁く佐野の声は、今にも消え入りそうで儚い。



目の前にいるのに、佐野がいなくなっちゃいそうで怖かった。




「……頼むから、笑って」




それだけ言って、佐野は一度もあたしに顔を見せずに、


抱きしめる腕を緩めて、


そっとあたしを手放した――。






涙で滲む、佐野の後ろ姿に手を伸ばしても、



霞んでみえるヒーローに、あたしの手は届かなくて。






星ひとつない暗闇の空間の中で



あたしの頬には、ポロッと一雫の涙が伝っていた。





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