【続】三十路で初恋、仕切り直します。

折角たのしい気分で話していたのに。言わなきゃいいのに。

そう思っているのに、他愛のないやりとりをする中でも募っていくさびしさが、自分の意思を裏切って唇から恨み言のような言葉を漏らしてしまう。視界は早くも涙で曇りはじめていた。


「……この前、法資は湿っぽい空気は苦手だから、ああいうふうに別れることになってむしろよかったって言ってたけど。……それでもわたしは……ちゃんと、法資のこと、空港まで送っていきたかったのに………」


気持ちの整理がつかないままの唐突な別れに、心が引き千切られる思いだった。

仕事なら仕方ないと納得していたし、法資をいまさら詰る気はなかったのに、それでも涙は止らなかった。


『そんなにつらかったのか……?』

言葉を返すことは出来なかった。飲み込むことが出来ない嗚咽がその答えだった。


「ごめん…なさい…………好きなの……」


日に日にその思いは強くなるようだった。

だから法資を困らせると分かっていてみっともない泣き言を言ってしまうのも、いい歳して泣きじゃくって無様な醜態を晒してしまうのも、今は許してほしい。

俯いたまま止めることが出来ない涙がこぼれていくに任せていると、画面越しに法資が、泰菜、泰菜、とあやすようにやさしく繰り返す。

抱き締める手の代りに、キスをする唇の代わりに、その声が何度も何度も泰菜を労わるように呼びかけてくれる。



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