【続】三十路で初恋、仕切り直します。





やっとゆっくり調べ物が出来るな、と思いながら淹れられたばかりのラテを口に運ぶ。季節限定のホイップとイチゴのチップがたっぷりとトッピングされたそのラテの甘さにほっとひと息つく。


転寝する法資を家に置いて、車で40分ほどのところにあるショッピングセンターまでひとりで来ていた。土曜日の午後ということもあって大勢の家族連れやカップルで混み合う中、泰菜はコーヒーショップの片隅を陣取り、持ってきた結婚情報誌を広げていた。


今見ているのは巻頭のドレス特集で、最高の晴れ舞台に相応しい『運命の一着』を選ぼうという趣旨のもと、年齢や体型・イメージ別におすすめのデザインのドレスが一覧になっていた。

定番のAライン、大人っぽいマーメード、清楚なエンパイアに可愛らしいプリンセスライン。

式場も決めないうちからウェディングドレスのことなど考えても意味がないと分かっていたけれど、まずは自分がいちばん楽しくなれることを考えてみようと思っていた。なのに目にもうつくしい数々のドレスを眺めていてもいまいち気分が乗ってこない。


「……早くちゃんとわたしが決めなきゃいけないのに……」


呟いてまたラテを啜り、諦めたような気持ちでインデックスの『東京の式場を探す』からページをめくろうとしたところ。


「あれ、相原?」


野太い声で誰かが呼びかけてくる。男の人の声だ。職場の人かしらと思っているともう一度、


「おい相原じゃないか?」


と呼びかけてくる。結婚情報誌から目を離して顔を上げると、泰菜と同年代くらいの大柄な男が立っていた。ちょっと太めなどっしりとした身体に、眠たげに見える垂れぎみの一重。そしていかにも温厚そうで人の好さそうな雰囲気。『熊さんみたい』とよく女の子たちにからかわれていた記憶の中の人が、目の前の姿に重なる。


「……もしかして、鉄っちゃん先輩?」


泰菜が思い出したその名を口にすると、先輩はにたっと朗らかな笑みを浮かべる。


「やっぱ相原かぁ。久し振りだなぁ。元気してたか?」




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