【続】三十路で初恋、仕切り直します。

法資は「俺は頭に血が上りやすい人間だって自覚はある」と吐露し、なおも切実な顔で言葉を続ける。


「それにくだらないことで怒っておまえに当り散らすような幼稚な人間だ。けどそのくせ俺は泰菜から頼りにされたいんだよ。もっとおまえの話を聞きたいし、おまえの気持ちに寄り添わせてほしい。俺はもっと、おまえから好意だけじゃなくていろんなものを受け取りたい。だってそういうことが愛されるってことだろ?」


今まで経験したことがないことだから愛されるということがどういうことなのかわからないし、うまく想像もできない。でも。


「……そういうふうになれたらいいなって、わたしも思う」


与えるだけでも受け取るだけでもなく、法資といろんなことを分け合うことができたら。恋人同士のその先にある、そんな互いを満たし合えるような関係になれたらと思う。


「悪かったな、泰菜」


急に謝られて、でもその理由が分からずに困惑していると法資がまた頭を撫でてくる。


「俺はずっと、おまえは俺に遠慮しすぎだってまた自分勝手におまえの所為にするようなことを考え掛けていたけど。……そうじゃなくて俺に甲斐性がないだけなんだよな」


髪をくしゃくしゃにしてくる大きな手とは反対に、言葉はちいさな隙間もないように丁寧に慎重に法資の口から紡がれていく。


「スカイプで話してたときも、疲れた顔も仕事引き摺った雰囲気もおまえに見せてたから、俺のそういういっぱいいっぱいなところがおまえが俺に気軽に何か話すのを躊躇わせたんだろうな。おまえのことで俺が知らないことがあるのも、おまえが自分の話をしないのも、一因は俺なんだろ?」

「そんな、わたしは」
「一因なんだよ、俺も」
「でも法資が弱ったところ見せてくれるの、安心したし、ちょっとうれしかった」
「だとしても。それじゃ俺ばかりおまえに甘えてるってことだろ」


これ以上は反論を許さないとばかりに遮ると、法資はもう一度、梅ノ木を見上げた。




< 73 / 167 >

この作品をシェア

pagetop