【続】三十路で初恋、仕切り直します。

静岡を出る数日前にそれぞれの父親に「挨拶に行きたい」と連絡した。すると法資の父親が面倒だから自宅に泰菜の父と後妻の紀子も呼んで、一度に顔合わせを済ませてしまおうと言い出した。


それで式場の下見を終えた後、地元の桜井町に来ていた。


「ちゃんとおまえの親父さんに『娘さんを下さい』ってなこと言うつもりだったんだけどな。うちの親父だけじゃなくて赤ん坊連れの兄貴たちもいたんじゃ、大騒ぎでそれどころじゃなくなりそうだな」
「……うちのお父さん、そういう堅苦しい挨拶とか苦手だからなぁ。それであえておじさんが気を回してくれたんだろうね、お父さんがうやむやのうちにわたしのこと嫁に出せるように」
「まあそうなんだろうけど」


法資が張り合いがないとも言いたげにぼやくものだから、思わず笑ってしまう。


「残念ながらうちのお父さん、わりと放任主義だからね。『娘はやらん』とかそういう熱い反応ないよ?というか30ももうじき半ばになっちゃう娘の結婚なんて怖くて反対出来ないって。むしろやっとお荷物が片付いて有難がってるよ」
「そういう言い方よせよ。俺が売れ残りのどうしようもない女捕まえたみたいに聞こえんだろ」
「……ごもっともですけど、その言い方もちょっとひどいんじゃない?」


法資に詰め寄ると、視線を泳がせた法資が誤魔化すように「あれ、あそこにいるの兄貴たちじゃねえ?」と指を差す。

話題を逸らされたと分かってはいたけど本気で絡むつもりではなかったので示された方角を見ると、法資の家の前にファミリーカーが停まっていた。その傍らに大きなバッグを抱えた法資とよく背格好の似た男の人と、後部座席から何かを取り出そうとしている女の人の姿が見えた。


英達と彼の妻の晶だ。



< 87 / 167 >

この作品をシェア

pagetop