【続】三十路で初恋、仕切り直します。


言ってから「しまった」と思ったけれどもう遅い。

胸の内に留めておこうと思っていたのに、こんな嫌味っぽい言い方で口にしてしまうなんて、思ったより泰菜も酔っていたのかもしれない。


法資を見ると、彼は泰菜以上に気まずそうな顔をしていた。


「……おまえ、さっき兄貴が喋ったことやっぱ気にしてるのか?」


べつに、と答えながら窓の外に目を向ける。大人気ないとわかっているけれど、「気にしていない」と言えば嘘になってしまうからうやむやに言葉を濁すしか出来なかった。






『無事にいい相手と結婚出来そうでよかったなぁ』


先ほどの顔合わせのとき、酔っ払ってそう言ったのは英達だった。


昔から酒好きな英達は酔っ払うと少々口が軽くなるところがあり、泰菜が高校生のときも法資が居ない場で酔っ払った英達が面白半分に法資の女遍歴をいろいろと聞かせてきたことがあった。


今日は妻の晶がいるうちは余計なことを喋りだそうとするたびに晶にド突かれ口を噤んでいたけれど、20時過ぎに英人を連れて晶が先に帰宅してしまうと、完全に出来上がって機嫌のよくなった英達はネタにされる法資も聞かされる泰菜も気まずくなってしまうような法資の暴露話を始めてしまった。


『ウチは男所帯のはずなのにさぁ、いつからかときどき洗濯物に女の子の下着が交じるようになったんだよねぇ。俺、法資はさぁ、ほんっと女の子にルーズだったから、きっといつかヘマしてどうでもいい遊び相手とデキ婚するんだと思ってたよ。それが泰菜ちゃんと結婚出来るなんて、おまえ本当によかったなぁ』


暴露話をする英達はかけらも悪気がないのは目に明らかだった。

本当に本心から英達は『過去の行状を思えば泰菜ちゃんと結婚出来たのは幸運だ』『こんないい加減な弟に嫁いでくれる泰菜ちゃんは本当に有難い存在だ』と思って、彼なりに二人の結婚を心から喜んでいるのは分かった。


決まりが悪そうな顔をした法資はしまいには怒りながら英達を止めようとしたけれど、英達に悪意がないと分かっていた泰菜は場の空気が悪くなることを恐れて「まあまあ」と法資を宥めてしまった。

結果途切れ途切れになりつつも、法資が話したがらない過去の彼女たちとのあれこれを聞くハメに陥ってしまった。



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