ラベンダーと星空の約束+α
 


うっかり相槌を打つのを忘れていると、留美が自分の番の石蹴りを無視して、俺の正面に立ち塞がった。



ヤバ……
留美の頬っぺたが膨らんでいる。

どうやら聞いていない事が、ばれてしまったようだ。




「紫龍君、私の話し聞いてる?
全然聞いていないでしょ?」




「聞いてるよ。
返事をし忘れただけ」




「じゃあ、うちの犬のベスが最近覚えた芸を言ってみてよ。

これ、さっき教えてあげたばかりだよ?」




「えーと…お座りじゃなくて…二足歩行じゃなくて…玉乗り?」




「違うっ!

“バン!やられた〜からの、なんちゃって”だよ!」




「(何だよその変な名前の芸…)」





話しを聞いていなかった事はごまかせそうにないので、

取り合えず「ゴメン」と謝り「行くぞ」と留美を避けて歩き出した。




留美は立ち止まったままで付いて来ない。


機嫌の直らない彼女に

「置いて行くか…?」
とチラリと思う。



けれど後で
「紫龍君が意地悪した」
なんて、母さんに言い付けられるのも面倒臭いから、溜息一つで引き返す。



背を向けていた留美の正面に回ると、

彼女は両手をきつく握り、俯いて唇を噛み締め、何かを堪えている表情をしていた。



下から顔を覗き込み「どうした?」と聞く。


すると、留美の瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちた。




これには慌てた。

何で泣く?

俺が話しを聞いていなかった事が、そんなに悲しいのか?



どうしていいのか分からず、頭を撫でてみる。




「留美ゴメンて…泣くなよ…」



「うっ…うっ…
紫龍君…私のこと嫌いなの?」





はぁ…
話しに上の空だっただけで、何故嫌いと言う結論になる……




「嫌いじゃないよ」



「じゃあ好き?付き合ってくれる?将来結婚してくれる?」




待ってくれ…

今度は「嫌いじゃない」イコール「好き」かよ…

しかも結婚って……




極端な留美の思考に付いて行けない。


留美の事は「少し可愛いと思う」程度で、

好きとか付き合うとか、まして結婚なんて考えた事もない。



けれどここで「好きではない」と言えば、益々泣かせてしまうだろう。



何て言えばいいのか…

少しは好き?

好きになる可能性は、無きにしもあらず?




駄目だ…何を言っても彼女の涙を加速させてしまいそうで、言葉に詰まる。



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