続・雨の日は、先生と
第1章 卒業式の後で

呼び方の練習

「先生。」


「……。」


「ねえ、先生!」


「……。」



さっきから、何度呼んでも返事をしてくれない天野先生。



「せん、」


「分かっているんでしょう?笹森さん。」


「へっ?」


「その呼び方じゃ返事をしないって、言ったじゃないですか。」


「あ、……その……。」



先生は、わざと先生らしく諭すように話す。

いや、そんなこと言っても。
先生を名前で呼ぶのって、かなり勇気が要るんです……。



「笹森さん。」


「はい。」


「って、いつまでも呼んでいてもいいんですか?」


「嫌、です。」



地味にプレッシャーをかけられている。



「そんなに呼びにくい名前だとは思いませんが。たった二文字ですよ。」


「む、むずかしいです。」


「太陽の陽ですよ。小学校で習う漢字じゃないですか。」


「読み方くらい知ってます。」


「なら、呼べますね。」


「呼べません。」



卒業式が終わってから、私たちは一応「付き合っている」という状態なのだと思う。
言われてみれば、先生がそう言ってくれたわけではないのだけれど。

あの、最後の数学科準備室で。

先生は私に、「愛してる」という言葉をくれた。

初めてだったんだ。
先生が、私に確かな言葉をくれたのは。

いつだって、つかみどころがなくて。
どうしたって繋ぎ止めてはおけなかった先生が、あの日。


だから、その日から私は、「先生のもの」になった。


ずっとずっと夢見ていた、先生の隣にいることが、出来るようになった。


そう、雨の日じゃなくたって。
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