続・雨の日は、先生と
「陽さん、今日はありがとうございました。」



頭を下げると、先生は微笑んだ。



「どうしたの、かしこまって。」


「だって、」


「気にすることないんだよ。私は唯が望むなら、なんでも叶えてあげたい。」


「え?」


「学びたいなら、大学だって行かせてあげるよ。」


「でも、陽さん……、」


「今までは、君の先生だった。先生は、口を出すことはできても、実際には何もしてやれない。だけど、今は違う。」



陽さんは、にっこり笑って私を見つめた。



「唯は私のものだけれど、私も、唯のものだから。」


「私の、もの?」


「そうです。もうとっくから、私はあなたのものだよ。唯に出会って、私は変わった。唯が私を変えたんだ。」


「陽さんは、私のもの……。」



なんだか実感がなくて、口に出して言ってみる。

すると、先生は心なしか顔を赤らめた。



「困った笹森さんですね。そんなこと、言わなくても分かるでしょう。」



ドキドキする胸を押さえて、先生を見つめる。

もう夕方。

青空はだんだん、夕焼け色に染まりつつある。


屋上にはもう、私たちしかいない―――



「陽さん。」


「ん?」



優しい顔で振り返った陽さんに、背伸びしてキスをした。

眠っているとき以外だと、私からキスをするのは初めて―――



「ゆい、」


「陽さんは、私のものなんでしょう?」



そう言うと、先生はとてもとても嬉しそうに笑った。



「防犯カメラがあったらどうするの。」



言われてはっと、辺りを見回した私を、陽さんは急に抱きしめてキスを返してくる。



「不意打ちには不意打ちを。」


「ばか。」



胸を叩いた私の手を取って、先生はゆっくり歩き出した。



「さ、帰ろうか。たまとシロが待ってる。」


「うん。」



お父さんみたいな先生に手を引かれながら。

私は、幸せに浸っていた。

いつまでも、いつまでも。

この幸せが続きますように、と願いながら。
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