続・雨の日は、先生と
家の前の道で、先生と反対側に別れた。

手分けして探すことにしたんだ。



「シロ!シロー!」



私の声が、すっかり日の落ちた静かな住宅街に響く。



「シロ!」



どこにいっちゃったんだろう……。



「シロ!」



パタパタと走りながら、ふと思った。

シロは、先生と公園にいたときに現れたから。

もしかして、公園が懐かしくなったのではないだろうか―――


シロはそんなに遠くに行っていないはず。

そう思った私は、道を引き返した。

そして、先生の家の近くの公園を目指した。



「シロ!」



呼んでも呼んでも、答える声はない。

無事ならいいんだけど。



「シロ!」



そしてとうとう公園まで来てしまった。

見ると、公園の端には大きな池がある。



―――まさか……。



犬って泳げるっけ?

いや、でも犬かきってよく聞くから、泳げるには泳げるんだろう。

でもシロは?

シロは泳げる?



「シロ!」



池を眺めたとき。

向こうに、白いものが浮いているのが見えた。



「え、シロ……。シロっっっ!!!!!」



私は夢中だった。

いつの間にか、その池に飛び込んでいたんだ。

その深さを思うこともなく。


足が着かないことに気付いたときは、もう遅く。



「やっ、」


「唯っっっ!!!」



ザブーンと音がして。

気付くと私は先生の腕の中で。



「ばか!!!なにしてるの!!」


「だって、陽さん、シロが……シロ、」



片手を見ると、私が掴んでいたのは白いビニール袋だった。



「あ、」



言葉を失くした私を、そのまま岸へ引き上げる。

春も終わりが近づいたといっても、まだまだ夜は肌寒い。

池だって、水はすごくつめたくて。


私も先生も、全身びしょ濡れだ。



「唯、まだ分からないのか。」


「え、」



怒ったような先生の声。



「私は、私自身よりもあなたのことが大事だと、言ったではないですか。」


「陽、さん、」


「あなたを失ったら生きていけないと、言ったじゃないか唯!」



そう言って、冷たい私の体を、思い切り抱きしめた先生。

布越しに、先生の温度が伝わってきて、少し温かい。

こんなにも先生が怒ったのは初めて―――



「ごめんなさい。」


「……。」


「ごめんなさい、陽さん。」


「……今日はもう帰ろう。シロはまた、ふらっと帰って来るかもしれないから。」


「ごめんなさい、」


「もういいよ。すまない、怒ったりして。……そもそも、唯の不安を煽るようなことを言ったのは、私だったね。」



先生は、私の手を掴むと立ち上がった。

名残惜しく辺りを見回す私の手を強く引いて、先生は歩き出す。


こんなにも、私のことを大事にしてくれる先生。

それなのに私は、いつまで経ってもノラ猫のまま。

ちっとも先生を安心させてあげられない。


ごめんね、先生。


だけど、ちょっと、嬉しかったよ―――
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