とびっきり、片思い。
第3章

新学期




新学期が始まった。


たったひとつの変化を覗いては、いつもの日常が戻ってきたという感じだ。


昼休憩の時間、私と百合子は主事室に入り浸って、用務主事の有村さんに話を聞いてもらっていた。


主事室は原則として生徒は立ち入り禁止なんだけど、有村さんは良いよと言って、内緒で私たちの入室を許可してくれている。


有村さんは中年の男性で、眼鏡をかけていて、ふくよかな体型をしている。


その容姿から優しさがにじみ出ている人。



「ねえ聞いて」という私の声が室内に響いた。


有村さんに肩もみをしながら、モヤモヤした胸の内を話した。


「中田の様子がおかしいの!話しかけても目を合わせてくれないんだよ。絶対におかしいよね」


最近、私に対する態度が急変していてとても奇妙なのだ。


夏休み中は会っていなかったけれど、その間に何かあったのかな。


「避けられてるって感じでさ」


「気持ちいいなぁ。やっぱり新垣さんはマッサージ上手だよね。将来はマッサージ師になればいいのになぁ」


有村さんの顔を背後から覗き込んだら、頬の血色をよくして幸せそうに眼を閉じていた。


「私の話しちゃんと聞いてくれてます?」


「おお、聞いているよ」


その時、百合子が口を開く。


「良かったじゃん。中田のこと嫌がってたんだから。これで問題解決!」


そうあっさりと言った。


「うん。そうなんだけどね。でもやっぱ変な気分だよ?」


「たしかに、良い気はしないよなぁ」


有村さんの言葉に、肩もみの手に力を込めながら大きく頷いた。



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