ヒット・パレード



ビール片手に、森脇と前島は色々な事を語り合った。


最初、森脇は前島の左手の事を気遣って音楽の話題は避けようと思ったのだが、意外な事に前島の方からかつてのトリケラトプスの話題を持ち掛けて来た。


アマチュア時代のレスポールでのステージの思い出話。他のバンドとの喧嘩、熱狂的過ぎてまるでストーカーのように森脇に付きまとってきた女性ファンの話。
プロになってツアーで全国を回った時、打ち上げで飲み過ぎて武藤が全裸でホテルの外に出ようとするのを、みんなで慌てて追いかけ回した話。


数え挙げればキリがない。全てが懐かしい良き思い出だった。


そんなバカ話をし、二人で思い切り笑った。


こんなに心の底から笑ったのは、いったい何週間ぶりだろう。


これならきっと前島は立ち直れる。
もう、大丈夫だと森脇はかつて無い手応えを感じた。




何時間経っただろう。あまりの愉しさに時間の経つのも忘れ、いつの間にか夜になっていた。


「あれ?もうこんな時間か」


部屋の壁掛け時計を見上げ、森脇が呟いた。


「四時間は飲んでたか?」


「ああ、こういう時間は経つのが早いな」


丁度、ビールの買い置きも尽きたところで、今日の飲みは御開きにしようという事になった。


「じゃあ、俺そろそろ帰るわ」


そう言って腰を上げ「また来るから」と告げて森脇は玄関に歩いていって靴を履いた。


そして、ドアを開けて外に出ようとした森脇の背中から、前島が呼び止めた。


「勇司!」


振り返る森脇に、前島が優しく微笑んで言った。



「ありがとう。お前に出逢えて本当によかった」



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