ヒット・パレード



本田の用意した、二十人のギタリストの映像を収めたVTRを全て観終わると、森脇はノートパソコンを閉じて本田に渡した。


「どうです?誰か気になるギタリストはいましたか」


遠慮がちに尋ねる本田に、森脇は満面の笑みを浮かべ答えるのだった。


「ああ、おかげ様で決まったよ。
ライブには黒田 明宏に出て貰おう」


「なにっ?」


「お前、本気かよ?」


森脇の出した決定に、まるで鳩が豆鉄砲を食らったような顔の武藤と森田。


「アイツは、前島に負けた奴だぜ?」


「晃に勝てる奴なんて、いる訳がねえだろ。それに、負けたとは言え、あの前島 晃に勝負を挑んで来るなんざ、なかなか見処があると思うんだがな」


「どうかね、只の身の程知らずの馬鹿って事もあるぜ」


「確かにな。だが、そういう馬鹿を使ってみるのも面白いと思ってね」


森脇は、ノートパソコンの映像を観て感じた事がある。


ひとつは、冷静に演奏技術を比べた場合、映像の二十人の中では黒田の演奏技術が突出していた事。そして、他の優等生めいたギターワークに対し、黒田のギターのみが野心を剥き出しにした躍動感に満ちていた事である。


「本田さん、ライブには黒田を使う。交渉の方、よろしく頼むよ」


この森脇の申し出には、正直、本田も困惑していた。勿論、ギターの腕前は本田も認めるところである。ただ、黒田という男は性格的に多少問題のある男だったからだ。


「森脇さん、一応ご忠告しておきますが、黒田という男は大変扱い難い男です。一言で言うならば、自己中心的、自己顕示欲の塊です。
目立ちたがり屋で常に自分がグループの中心でいなければ気が済まない………それ故に、バンドを転々と渡り歩き、現在はソロ活動に至っている」


「成る程な、手のつけられねえ不良中年って訳だ。
願ってもないね、晃の穴を埋めるには、それ位の奴じゃなけりゃ面白くないってもんだ」


本田の忠告も笑い飛ばし、森脇は前島の代役にロック界のトラブルメーカー黒田 明宏を指名するのであった。



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