ヒット・パレード



トリケラトプスのメンバーが武道館にやって来たのは、プラチナボンバーのステージが始まった頃だった。


関係者用の通路で陽子と顔を合わせると、そこで軽く話を交わす。


「あれ、森脇さん早い会場入りですね」


「おう、雨の降りが強くなってきたからよ、早めに入っておこうと思って」


「雨?」


ずっと室内で仕事をしていた陽子は、外で雨が降っている事に今まで気付いていなかったようだった。
そんな彼女に、森脇は今の外の天気を伝えた。


「結構、ドシャ降りだぜ。おまけにカミナリまでゴロゴロ言ってるよ」


夕方から関東地方には広範囲に渡って積乱雲が発生し、各地に雷雨をもたらしていた。武道館のあるこの地域には大雨・雷警報が発令され、予報ではこの天気は深夜頃まで続くという事らしい。


「へえ、全然気付きませんでした。じゃあ楽屋まで案内しますよ、ついて来て下さい」


「さっき、出演者用の観覧席があるって聞いたぜ?ライブ観てちゃダメなのか?」


「あ~それは………」


「客席でライブが観たい」という森脇に陽子は困ったように俯きながらこんな事を言った。


「ごめんなさい……本田さんから、森脇さん達はステージ本番まで客席から見えない場所に居てもらうように言われてまして………」


トリケラトプスは28年間の沈黙を破って、今夜この24時間ライブの大トリで復活を遂げるバンドである。そのプレミア感を演出する為に、彼等には登場まで観客から隠しておきたいというのが本田の意図であった。


「なんだよ、ライブ会場でライブ観れねえって………」


「ごめんなさい、楽屋にテレビがありますからそれで我慢して下さい」


口を尖らせて文句を言う森脇をなんとか宥めて、陽子はトリケラトプスのメンバーと黒田を楽屋へと案内した。



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