ヒット・パレード
陽子を停めた交通整理の男は、向こう側の車線で交通整理をしている同僚と無線で会話していた。
「おい、そっちの方はまだ切れねぇか?さっきから、こっちの先頭の赤いフィットのねーちゃんが、すげぇおっかねぇ顔で睨んでるんだけどよ」
『ハハハ、お嬢様、怒った顔もまた素敵でございますってか♪』
「いや、何だか知らねぇが鬼気迫った顔だな………ションベンでもガマンしてるんじゃねぇのか?」
『そいつはいけねぇ。こんなところでお漏らしはゴメンだ!えーーと、こちら最後尾黒のエルグランド、ナンバー7544が過ぎたらオーケーだ!』
「7544ね。了解!」
無線で冗談を交えつつ情報を交換した交通整理の男は、連絡のあった黒のエルグランドが通り過ぎるのを確認した後、陽子の車を先頭にして並んでいる車両の列に向かって旗を振った。
男が旗を振りながら、何気なく横を通り過ぎる陽子の方へと視線を移すと………
「ん?」
陽子が男とすれ違う瞬間、彼女が運転する赤いフィットの窓が半分程開くのが目に入った。
そこから横に伸びた細い右腕が、肘から上に曲がり、握った拳から中指だけを立てる。
そのまま、陽子の車は男の横をスピードを上げて通り過ぎて行った。
「なんだあの女、気合い入ってんなぁ………」
過ぎ去っていく陽子の車の後ろ姿を眺めながら、交通整理の男は腹を立てるというよりは、むしろ愉快そうに笑っていた。
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