ヒット・パレード




せっかくトリケラトプスの消息を突き止めるチャンスが来たと思いきや、肝心のマスターからは何も情報を得る事が出来なかった。


そう陽子が諦めかけた時だった。


隣に座っていた本田が、マスターに別の質問を投げ掛けた。


「マスター、それではトリケラトプスのメンバーの誰かが、最近この店に来た事はありませんか?」


その本田の問い掛けに、マスターは顎に手を当て、何かを思い出すそぶりをしていたが、やがて申し訳なさそうに首を横に振りながら答えた。


「最近は誰も来ていないね………去年の夏、森脇君が来たのが確か最後だったと思うけど」


マスターの言う森脇君というのは、ボーカルの森脇 勇司の事であろう。


「その時、彼は何か言っていなかったですか?どんな些細な事でも構いません」


これじゃ、まるで刑事だな………などと心の中で呟きながら、本田はしぶとくマスターに食い下がる。


「うーーん、何か特別な事は………」


そう言いかけたマスターの記憶に、ふと森脇と交わしたある言葉が浮かび上がった。


「あ、そういえば………」


「何か思い出しましたか?」


「確か彼、今は工事現場の仕事をしているとか言ってたかな………今と言っても、去年の夏の事だけれど」


「ありがとうございます!おかげで大きな手がかりが手に入りました!」


本田は、マスターに深々と頭を下げて礼を言った。


工事現場と言っても、それが東京圏だとは限らない。それに例え東京圏だったとしても、その数たるや恐らく相当なものであろう。それに加え、森脇が今もなお工事現場で働いている保証はどこにも無い。


なんとも頼りない小さな手がかりではあるが、ともかく現状よりは一歩前進した事には変わりなかった。


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