ヒット・パレード
十五分の休憩を挟んで、会議は再開された。
そこに、山下の姿は無い。
ドラマ部門の山下が戦線離脱すると、報道の古谷、スポーツの松本、バラエティーの田中は、ここぞとばかりに自分達の企画をアピールし始めた。
「報道部門では、生中継での討論番組を企画しています。某局の《朝まで生テレビ》のさらに上を行く、24時間生テレビです!」
「局長、そんな辛気臭い企画より、もっと明るくいきましょう!我がバラエティー部門では《芸能プロダクション対抗~24時間スーパーウルトラクイズ》を企画しています!」
「スポーツ部門では、スポーツ史五十年間を振り返り《オリンピック~プロ野球~サッカーワールドカップ五十年間の名場面!あの感動をもう一度!》を企画しています!高視聴率間違いなしですよ、局長!」
各部門、自前の企画を得意気にアピールするが、それを聞いている局長の表情に新鮮な驚きは見出だせない。
各プロデューサーは、そんな局長の表情を敏感に読み取る。そして、当然のごとく、次なる戦略へと発展………それは、消去法……つまり、他がコケれば自分達の企画が採用されるであろうという、何ともレベルの低い発想だった。
「《スポーツ史五十年》って、そりゃ単なるVの使い回しじゃないのか?手抜きもいいところだ!」
古谷が松本の企画にケチをつけると、松本も負けじと古谷に食ってかかる。
「そっちこそ、朝まで生テレビのパクリじゃないか!あんなの、自分勝手に喋っているだけでいつも結論が出ない!全く意味が無いよ!」
「そうそう、口喧嘩をテレビで観ているようなもんだ。面白い筈が無い!」
「何だと!田中、お前のところのクイズだって、24時間もつ企画じゃ無いだろ!せいぜい二時間がいいところだ!」
「ふざけんなよ!憶測でものを言うな!このハゲ!」
「ハゲとは何だ!このデブ!」
「おいおい、アンタら小学生かよ……ハゲとかデブとか」
「うるせえっ!メガネはひっこんでろっ!」
「何だと!メガネのどこが悪い!」
薄毛の古谷、肥満の田中、そして極度な近視の松本………すでに企画自体の優劣を超え、互いのコンプレックスを罵り合うまでに議論は低俗化しつつある。
「だいたい、薄い頭で考える企画は内容まで薄いんだろうさ!」
「デブの考える企画はフットワークがまるで無い!」
「メガネの考える企画は先がまったく見えて無い!」
ここまで来ると、もう議論もへったくれも無い。醜い罵り合戦、子供の喧嘩である。
時計の針はもう午前零時を差している。彼らの様子を黙って窺っていた局長の表情には、明らかに苛立ちの色が滲み出ていた。
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