ホルケウ~暗く甘い秘密~


「誘ってくれてありがとう。でも、部活には入らない予定なの。ごめんね」


微笑し、しかしはっきりと断ったりこを、まなは胡散臭げに見つめた。

一体自分は、彼女にどんな印象を与えているのか。まなから漂う警戒感に、りこも自然と身構えてしまう。


「そうなんだー。残念だね、森下、隼人」

「春山、気が変わったらいつでも入部してくれよ」


相変わらず冷めた目でりこを見るまなと、尻尾を振る犬のごとくりこに人懐こい笑顔を振り撒く森下。

なんなんだ。この、気持ち悪いくらいの温度差は。


(クラス運無いな、私……)


これから1年半、楽しい思い出などとてもじゃないが、作れないだろう。
もとより受験勉強に専念するために引っ越したとはいえ、華の高校生活がセピア色に染まっていくのは悲しい。


(我慢だ、私。聖ルチアに合格してまた東京に戻れば、友達に会ったり好きな勉強したり、薔薇色の生活が送れる。私の青春は大学で始まるんだから)


祖父に勉強を見てもらいながら、これから1年半、ひたすら目立たず、騒がず、問題を起こさず、受験勉強だけに専念していよう。

固い決意を胸に、りこはその後居心地の悪さを無視して、午前中が終わるのを待った。
< 10 / 191 >

この作品をシェア

pagetop