ホルケウ~暗く甘い秘密~
たっぷり10秒間の沈黙の末、美佳はキラキラと輝きを撒き散らしながら、顔を上げた。


「なに、その美味しい状況……!」


(あれ?だい、じょうぶ……?)


予想をぶっちぎって食いついてきた友人に、りこは思わず体を引いた。


「あんた呉原玲とどれくらい仲良いの?」

「仲良いっていうか、お母さんポジションよ。朝起こしたり、ご飯作ったり、その延長で途中まで一緒に登校したり」

「めっちゃ仲良いじゃん」

「でもそれだけ。毎日顔を合わせているから、私の周りを知らない男がうろついてるのに気づいたりするのよ」

「彼氏のふりって、向こうから言い出してきた?それともあんたから?」

「向こうから……って、いつまで尋問する気?」


怒濤のごとく繰り広げられる美佳の質問攻撃に疲れたりこは、呆れたような眼差しを投げかけた。


「ふーん、まったく脈なしではないのか」


一連の話からそう診断を下す美佳に、今度はりこが怪訝な顔になった。


「というと?」


はぁーッと長いため息をつき、どこかジメッとした視線を向ける美佳。


「あのさ、普通どうでもいいと思ってる人に、わざわざ護衛を買って出たりしないでしょ?話し聞く限り、あんたの頑張り次第でどうにかなるんじゃない?これは」

「……そうかな」

「なに、なんか不安材料でもあるの?」

「んー……そうといえばそう、みたいな」


りこは、曖昧にして流そうと言葉を濁した。

いきなり人狼などとファンタジー全開なキーワードを出したら、この友人は間違いなくりこの頭の正常さを疑う。


(言えない……もし私が美佳の立場だったら、やっぱり私も引くもの)


しかし美佳のほうはというと、人狼のことで頭を悩ませるりこを見て、なにか勘違いしたようである。


「そうよねー、相手が相手だもんね。黒い噂の立つイケメンなんて、こんな田舎じゃ注目の的じゃない」


黒い噂、のところで心臓が一際大きく鳴った気がしたが、りこは軽く頷いた。


「……恋愛初心者でも出来ることって、なんかない?」

「なくはないけど、あんた実は分かりやすいからなァ……。男ってさ、どうでもいい子に好意持たれてるって気づいたら、さりげなく離れていくじゃん。女たらしは別として」

「え、そうなの!?」
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