ホルケウ~暗く甘い秘密~
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「聞きそびれたことがありました」


誰もいなくなった聖堂で、ジェロニモがポツリと呟くように言った。

彼が何を言おうとしているのか察したりこは、「私も言いそびれたことがありました」と返した。

りこは、森で少年に捕まったこと、首筋を切られたこと、切り傷から血を舐めてから少年が苦しみだしたことを語った。


「あなたの血が……。そうですか」


りこは、ホルケウの創立宣言が終わった後、帰らなかった。

里美を送り出し、ジェロニモと二人になるのを待っていたのだ。

長椅子の真ん中に座り、りこはなんとなくジェロニモを見た。

窓から差し込む濃いオレンジ色の光に照らされ、彼の白銀の髪がうっすらと朱に染まる。


「明日、玲をここに連れてきても良いですか?」

「もちろん。あの子も……あの子も、ボロディン族の滅亡を強く願う者の一人でしょうから」


話すことは、もう無い。

軽く一礼し、りこは踵を返した。


「春山さん」


りこを引き止めるようなジェロニモに声に、反射的に振り向く。


「あなたがこれからどうするのか、まだ聞いていませんでしたね」

「参加します」


ほぼ即答で、りこは答えた。


「玲と、この地に住む人狼たちがどうなるのか……。私はただの人ですが、出来る限りホルケウに協力して、見ていきたいんです」

「そうですか。では、これからよろしくお願いいたします」


今度こそ振り返らずに聖堂を出て行き、りこは真っ直ぐ町民ホールに向かった。

入り口のすぐ側の、公衆電話があるコーナーには誰もいない。

周囲に誰もいないのを確認してから、円玉を数枚入れ、九桁の番号を迷いなく打つ。

時計の針が5時37分を指すと同時に、電話はつながった。


「もしもし、玲?ああ、ちょっと色々あって今ケータイ手元に無いの。今夜時間ある?話したいことがあるんだ」

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