ホルケウ~暗く甘い秘密~


「まず、これは今となっては誰もが気づいていることだが、今回の騒動を起こしたオオカミは、普通のオオカミではない」

「オオカミの生態に詳しくないからなんとも言えないけど……その論拠は?」

「オオカミは、とても思慮深い生き物だ。狩りにはとても慎重で、一度の狩りである程度飢えを満たしたら、当面は満足する。それが、わざわざ人里に下りて人間を襲っているというのが、引っ掛かるんだ」

「一度狩りをしたら、当分は動かない……」

「そうだ。例外があるとすれば、目の前に弱っている獲物がいた場合。その場合、オオカミは獲物が絶命するのをじっくり待つ」

「今日襲われた少年は、川辺で素振りをしていただけだった。弱っていたわけでもなんでもない。それに、地理。地理的な面からも疑問が生じる!」


店内に自分達以外は誰もいないのを意識した途端、りこの声は自然と大きくなっていった。


「あそこは、住宅街のど真ん中だった。少し歩けば商店街に入るし、森まではかなりの距離がある。そんな場所に、一体どうやってオオカミが入り込んだわけ?」

「頭が冷えてきたようだね。では、次の疑問について論じよう。オオカミは、どこから来たのか」


サラダが運ばれてきたため、二人は一旦会話を中断したが、りこは半分ほど食べ進めた後にため息をついた。


「そう。まずはそこ。根本的な疑問が解決していないんじゃあね……」

「突拍子もないことを言ってもいいかい?」

「どうぞ」

「オオカミは、どこかから来たのではなく、実はずっと北海道にいた」


サラダを頬張っていたりこは、ゆっくりと顔をあげた。
もう一度、ゆっくり政宗の言葉を反芻する。


「それは……考えてなかった。だって、ニュースではオオカミは絶滅したって言ってたし」

「僕はまず、そこが気になるんだ。だって、絶滅したと言っても、このだだっ広い島の六割はまだ開発されていないんだよ?その、人の手が加わっていない六割の自然に、オオカミが潜んでいないとは言い切れないだろう?」

「確かに。言われてみれば」

「まあさすがに、こんな弱い論拠でオオカミは実は絶滅していなかったと唱えるのは、かなり無理がある」


政宗が苦笑したその時、二人のテーブルにピザとパスタが運ばれてきた。

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