ホルケウ~暗く甘い秘密~
箱の蓋を開け、黄ばんだ新聞紙のようなものを信弘は里美に手渡した。


「これを読みなさい」


字が所々薄れていて読みにくいが、それはかなり昔の新聞だった。

日付は、1949年の2月15日。

その衝撃的すぎる見出しの一文に、里美は新聞を持ったまま固まった。



“人狼現る!北海道の寒村、白川村に現れた謎の化け物”



「それは、わしが17の時の新聞だ。白川町がまだ村だった頃、村長の息子が行方不明になり、村人総出で探したことがあった。数日後、息子は発見された。死体となって」


話がどう今の状況につながるのかわからず、里美も亮平も、息を呑みながら続きを待った。


「息子の首は噛みきられていた。その後も白川村では、若い男が謎の獣に食い殺される事件が頻発した。村長の息子が死んでから1年後、わしをはじめとし白川村近隣に住むハンターが集結した。白川村に現れた謎の動物を退治するため、わしらは立ち上がった。だがな、わしの仲間達も次々とその謎の動物に襲われ、死んでいった」


過去を振り返る信弘の目が、ふと細くなる。
懐かしむような、しかし淡々とした口調で、白川村の物語は続きを紡がれた。


「まだ終戦から5年しか経っていなかった。白川村の若い男は、半分以上徴兵され、そしてほとんど皆帰ってこなかった。残った男たち、戦時中子供だった男児たちがその後の白川村を切り盛りしたが、彼らこそが謎の動物に襲われていった。日増しに、村人は森に近づかなくなっていった。わしらハンターの力は及ばず、日に日に獣に襲われた死体の数は増えていった……」


ある日、と切り出した信弘の目に清謐な強さが灯る。
里美と亮平は、ここからが本題だと察した。


「白川村の噂を聞きつけた札幌の新聞社から来た男が、わしらの狩りに同行した。そして偶然にもわしらの目の前に、その謎の動物が姿を現した」


オオカミだったんじゃ、と囁く信弘の声に、里美は声にならない不快感を感じた。


(なしてだろう……悪寒がする……)


「わしはそいつと戦った。そのオオカミは、怪しい薬を打たれたかなんかしたのかと思うほど、力強く凶暴だった。仲間の加勢もあり、なんとかオオカミを仕留めることが出来たが、翌日奇妙なことが起きた」


オオカミの死体が消え、代わりに青年の死体が納屋にあったのじゃ。
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