僕らが大人になる理由


女の子らしい可愛い声に、呼び止められた。

振り返るとそこには、制服姿の由梨絵さんがいた。

あたしは慌てて彼女がいる方向――レンタルビデオ店の方を振り返った。


「由梨絵さんっ」

「さんづけなんてやめてくださいよ、わたしの方が年下なのに」


ゆるやかに巻かれた艶やかな長い髪。自分の顔だちをよく理解した化粧、完璧なスタイル。…爪先まで女の子らしい。

そのあまりに付け入るすきのない姿に、嫉妬した。


この人が、紺君の好きな人。

この人が、紺君に一番近い人。


「今日はオフなんですか?」

「あ、そうなの! 今日はランチのみで。由梨絵ちゃんは何してたの?」

「ああ。これを借りにきて」


由梨絵ちゃんが見せてくれた紺色の袋の中には、3本のホラー映画が入っていた。


「えっ、由梨絵ちゃんホラー映画好きなの!?」

「いや、そうじゃなくて、柊人君に頼まれたんです」

「しゅーと…あ、紺君のことか」

「下の名前だとあんまりピンとこないですか?」


そう言って、彼女は柔らかく笑った。

あの紺君が頼みごとをするなんて…。改めて二人の関係性を突きつけられた。


由梨絵ちゃんは良い子。すごく可愛くて良い子。非の打ちどころがない。



なのに、あたし、由梨絵ちゃんに会うと、とてもとても卑屈な気持ちになってしまう。



こんなあたしを見たら、紺君はどう思うだろう。

…光流君は、どう思うだろう。

誰にも知られたくない。こんな黒い気持ち。



「どっか、公園とかで話しません?」

「いいねっ」



由梨絵ちゃんの提案に、あたしはちゃんと笑えていただろうか?

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