僕らが大人になる理由


お願い。もうやめて。

他のお客さんの視線も、このテーブルに集まっているのを感じた。

燃える様に顔が熱い。恥ずかしい。悔しい。声が出ない。


あ、やばい。泣きそう。


「真冬」

「っ」


低い声が耳元で響いて、同時に、トン、と肩を引っ張られた。

真後ろには、無表情の紺野さんがいた。


「料理、運んでください。ここのオーダーは俺が受けるんで」

「え、でも」

「俺に従えって言ったはずだ」

「っ」

「あと、面倒くさい仕事もまだお前にはやらせないって、言った」

「………」


え、ええええ今思いっきり本人たちの前で『面倒くさい』って言っちゃったよこの人!?

4人の男女は引きつった顔で紺野さんを見ていた。

紺野さんはあたしの青ざめた表情を見て、一回小首を傾げたけど、自分の失言に気づいたのか、低い声で『ああ』ともらした。

『ああ』じゃねえええ。


「失礼しました。ご注文はなんですか」

「本当に失礼だよ! 何なんだよお前」

「店員です」

「分かってんだよそんなこたあ!」

「紺野柊人です。AB型です」

「なめてんのかお前!?」


もちろん、男性客、マジ切れ。女性の二人組もかなり表情が引きつっていた。

言わずもがなあたしは顔面蒼白。
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