僕らが大人になる理由


あたしは、壁に頬を寄せて、暫く考えこんだ。

それから、意を決して、再び電話をかけた。


「………なんですか」

「あのっ、あたし、紺野さんのこと好きになっちゃいました!」

「………え」

「というわけで、明日から紺君と呼ばせて頂きます!」

「え、いや、全然意味わかんな…」

「おやすみなさい!」


言い終わった瞬間、カアーッと顔に熱が集まっていくのを感じた。

言ってやった。

言ってやったぞ、あたし。

心臓、バクバクいってる。

あたし、きっと今ものすごいことをした。

たぶんこの勢いで2キロくらい走れちゃう。いや、盛った。やっぱり1キロ。


でも、そのくらい体が沸騰してる。

だって、そうだよ。

彼女がいるからって、冷めてる場合じゃないんだよ。


好きでいることは、自由なはずなんだから。

あたしは、自分にそう言い聞かせて、布団の中に勢いよくもぐった。




壁を挟んだ向こう側。

紺君の無表情な顔が少し崩れたところを想像して、眠りについた。


< 29 / 196 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop