僕らが大人になる理由


彼女、と言えば、今朝、真冬が俺の彼女についてしつこく聞いてきたのを思い出した。

俺の彼女の名前は、神崎由梨絵。現在高校2年生。

10歳の俺を引き取ってくれた夫婦(俺の母親の古い親友)の娘だ。

俺の母はシングルマザーで、病気がちだったせいで、とても俺を育てられる状態ではなかったそうだ。

母は俺が3つの時に亡くなってしまったから、記憶にはあまり残っていない。

それは寂しいことであるけど、母の親友であった義母から母の話をたくさん聞かせてもらえたことは救いだった。

由梨絵の家族にはほんとうにお世話になった。

5年間もの間、俺は由梨絵と、由梨絵の家族と過ごしてきた。


「………ん」


…由梨絵のことを考えると、過るのは昨日の突然の告白。

一体どうしてあんなことになったのか。

俺、あんなに冷たくしたのに。理解できない。


「!」


と、その時、まだ20分も経っていないのに携帯電話が震えた。

発信者の名前を見て、俺はすぐに通話ボタンを押した。


「はい、もしもし」

「柊人くん、今もしかして寝てた?」

「いや、ちょうど起きたところです」

「本当? 良かったー。あのね、今日学校はやく終わったらそっち行っていい?」

「駄目です。夜からはほとんど居酒屋状態だって言ったでしょう。危ないです」

「でも……。もう三日も顔見てないよ。寂しいよ…」

「……じゃあ、今日はあがるの19時だから、それまで駅で時間つぶしててください。会いに行きます」

「やった!」


由梨絵からは、毎日電話一本、メールが10通くる。

光流にそのことを当たり前のように話したら、『お前どんだけマメなの!? 大丈夫!?』となぜか心配された。

大丈夫、と聞かれても。これが俺たちの…由梨絵の当たり前だったから。

由梨絵は、こまめに連絡を取らないと不安になってしまうんだと思う。

由梨絵に告白をされたのは、俺が就職先を決めて出ていった1年後。彼女と付き合って、もうすぐ2年が経つ。

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