僕らが大人になる理由


…だから、嫌なんだ。

誰かが、自分のために何かをしてくれるなんて。

そんなの見たら、どうしていいか分からなくなる。

生ぬるくて、つかみどころのない感情に支配されることが怖い。


でも、ただ、今は、謝りたい。


「真冬、ごめんね」

「っ」

「傷つけて、すみませんでした」


謝った瞬間、彼女の肩が震えだした。

背を向けているからわからないけど、きっと今、泣かないように我慢しているんだろう。

そんな後ろ姿を見たら、よく分からないけど、胸がぎゅっと苦しくなった。

こんな風に切ない気持ちになったのは、いつぶりだろう。

誰かと喧嘩をするって、こんな気持ちになることだったっけ。


「…おせっかいだって、分かってたんですけど」

「……」

「紺君に、いっぱい助けてもらったから、あたしも何かしてあげたくて…。紺君に迷惑って、言われても…」

「っ」

「それでもなんかしたいって、思った、けど、本当は悲しかったっ…、紺君が言ったことは、まるで、あたしが、全てが、どうでもいいって言ってるみたいで…っ」


―――違う。

そうじゃない。そういう意味で、言ったんじゃない。

ただ、俺は、何かを欲したり、何かを与えられたりすることが、苦手で。

1人の方が、楽だったから。



…ああ、そうか。

無関心って、誰にも迷惑をかけていないと思っていたけど、こんな風に、誰かを傷つけていたんだ。

1人で生きていけると、いつの間にこんなに驕っていたのだろう。

とんだ勘違いだ。

もし、店長や、光流や、あゆ姉や、真冬が、『1人で生きていける』なんて思っていたら。そう考えると、少し胸が痛い。

どうしてかは説明できないけど、胸が痛い。
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