僕らが大人になる理由
中指で首筋をなぞると、真冬が一番顔を歪めた箇所を発見した。

俺は、そのまま待っててください、と言って、戸棚から湿布を取り出した。

冷たい冷たいと騒ぐ真冬を無視して、一気に貼ってやった。


「のおーっ、冷たいいいい」

「子どもじゃないんですから騒がないでください」

「ううう…。これで仲直りしたと思わないでくださいね…」

「意外と引きずりますね」

「流されないだけです」

「じゃあ」


俺は、すっとしゃがみ込んで、座ってる真冬と目線を合わせた。


「俺と仲直りしてください」


真っ直ぐ見つめて言うと、真冬は一瞬かたまってから、すぐに顔を両手で覆った。


「あっ、あたしも好きです」

「…一言も好きとは言ってません」

「『俺と付き合って下さい』って聞こえました」

「……おやすみなさい」

「あああ嘘です置いていかないでくださいいい」


…誰かと喧嘩したり、

誰かに怒られたり、

こんなこと、一体何年振りだろう。

こんな風にちゃんと仲直りをしたのは、初めてだった。

真冬といると、騒がしくて、疲れるけど、でも、嫌じゃない。

真冬といると、色んな自分に、会える気がするから。



「よかった! 紺君と仲直りできて」




どうしてかは説明できないけど、嫌じゃないんだ。






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