僕らが大人になる理由

そういうと、真冬は目を丸くさせたままかたまった。

嫌いにならないで、なんて、生まれて初めて言った。

生まれて初めて、本気で誰かに嫌われたくないと、思った。



――愛想ふりまいて、人に好かれることが快感。

良い人ぶってる自分に酔ってる。


人に嫌われることが怖いから、


俺のこと好きな奴は皆大好き。

俺のこと嫌いな奴は皆大嫌い。



そう、思っていた。

とても、臆病だったから。


「…無理です、嫌いだもん」

「嘘おおお」

「そりゃそうですよ! トラウマできかけたんだから!」

「………確かに」

「当たり前じゃん、苦手な所の方が圧倒的に多いですよ。光流君みたいなタイプの友達いたことないですもん」

「……女子校だもんな」

「…でも、それで、光流君の良い所が、全部帳消しになるとか、そういう問題でも、ないから」

「……ポイント制だったら帳消しどころかマイナスいっちゃうけどな」

「ハハ、本当ですよ」

「……真冬」

「…ナンですか」

「ごめん。お願い、許して、俺、真冬と仲良くしたいよ…」

「っ」

「駄目?」



――――お前さ、俺のどこが好きなの?

あの答えは、全部じゃなくて、良かったんだ。

全部が好きだなんて、嘘くさいし、そうそうそんな人はいない。

どんな親友だって、1個くらい嫌いなとこはあるはずだし、家族にでさえうんざりするところはある。


俺は、ただ、

10個俺の嫌いな所があったとしても、それでも、俺にあきれないで、俺の好きな所をちゃんと見ていてくれるような、

それでも傍にいてくれるような、

そういう、人間に出会いたくて。


そういう人間なら、何が何でも手離してやるもんかって、思えると思うんだよ。
< 76 / 196 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop