未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
「だから僕は反対したんだ。下手な小細工は逆効果だよってね。僕に任せてくれてたら、上手く行ってたのにさ」


慶次は手を頭の後ろで組み、まるで気楽な部外者のような口振りだ。顔には終始薄笑いを浮かべている。

しかし慶次の言う事には一理あった。というのは、もし菊子さんのタイムスリップや小松が現れてなかったら、俺は慶次や周囲の人間に勧められるままに、すんなり菊子さんと結婚していたかもしれないのだ。いや、きっとしていただろう。


「そもそもタイムスリップなんて、誰が考えたんですか?」

「妹よ。SF好きの。それと、同級生のその女よ」


ああ、なるほどね……


「服を着たままタイムスリップは出来ないとかで、仕方ないから裸になったわよ」

「ひゃー。それこそ“体当たりの演技”ですね!」

「まったくよ……バカみたい」

「あはは。信之さん、僕はその企みには一切関係ないですからね?」

「その企みには、だよな?」


俺は、ことさらに“は”を強調して言い、慶次は一瞬だがギョッとした顔をした。


「あんた、この事を両親に……」


菊子さんは憎々しげに俺をキッと睨み、それでいて人の顔色を窺うような、いずれにしてもおおよそ令嬢には似つかわしくない顔つきで俺を見た。


「言いませんよ」


すぐにそう返すと、菊子さんはあからさまに安堵の色を顔に浮かべた。


「おそらくまた雑誌に書かれ、あなたは少なからず恥をかくでしょう。それで勘弁してあげます」


俺がそう言うと菊子さんはムッとした顔をし、「帰る!」と叫んで立ち上がると、さっさと応接間を出て行ってしまった。


「じゃあ、僕も……」

「おまえはまだだ」


すかさず腰を上げかけた慶次に向かい、俺はそう言い放った。菊子さんに便乗してこの場を逃げ出す魂胆だろうが、そうはさせない。

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