未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
幽霊か……


「そうかも」

「ひゃっ!」


もちろん俺は幽霊などという非科学的なものの存在は信じていないが、考えてみればあの女性の出現も非科学的で、その意味では同じようなものと思ってそう言ったのだが、メイドはビックリしてますます怯えてしまったようだ。


「ごめん。今のは嘘だから。幽霊なんて見てないよ」

「本当ですか?」

「ああ、本当さ。ただ……」

「旦那さま?」


あれは夢だったんだろうか。いや、夢にしては鮮明過ぎる。第一、廊下に落ちてたシーツの件を、夢じゃ説明出来ない。

しかしタイムスリップなんて非科学的な現象はどう考えてもあり得ないと思う。あれが夢でなかったのなら、やはり俺の頭がおかしいのか?


ああ、くそっ。これじゃ堂々巡りじゃないか……


「旦那さま、大丈夫ですか? お顔の色が……」


メイドは、つい今しがたまで子どもみたいに怯えて泣きそうな顔をしていたくせに、今はまるで看護士のような顔付きで、黙り込んだ俺を心配してくれている。彼女のプロ意識がそうさせているのだろうけども、そのギャップが何と言うか、面白い子だな。


「あ、ああ。何とか……」

「何かお飲み物をお持ちしましょうか?」

「ああ、そうだね。貰おうかな」

「ブランデーなんか如何でしょう? “気付け”になると思いますので……」

「いや、僕はあまり酒は好きじゃないんだ」

「そうでしたか。では、ココアは如何ですか?」

「ココア?」

「はい。気分が落ち着くと思います」

「ふーん。でも、甘いのはあまり好きじゃないんでコーヒーでいいよ。濃いめのブラックで」


俺は普通の事を普通に言ったつもりだが、なぜかメイドは目を見開き、キョトンとした顔をした。

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