未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
「旦那さま……」

「ん?」

「申し訳ございません」


そう言って爺やは、いきなり俺に頭を下げた。普段から腰の低い爺やではあるが、これはちょっと尋常ではない。よほど良からぬ事が起きたのだろうか……


「とにかく顔を上げてよ」


ほぼ真っ白になってしまった爺やの頭に向かって言うと、爺やはようやく頭を上げ、いかにも申し訳なさそうな顔で俺を見上げた。


「何かあったの?」

「はい。実はその、ヒロミさまが……」


ヒロミは猫なんだから、“さま”は付けなくていいといつも言ってるのだが、爺やはそれを改めようとはせず、だから他の使用人達もみんなそう呼んでいる。あ、小松はどうか分からないけれども。


「ヒロミがどうかしたの?」


まさか、死んだとか?

俺は咄嗟に菊子さんがヒロミを知らなかった事を思い出し、不吉な予感に襲われた。


「それがその、居ないんです」


“死んだ”と言われるのかと思ってドキドキしたが、そうではなくて一先ずホッとした。


「居ないと言っても、屋敷の中のどこかには居るでしょ?」


今までもそういう事はあった。一日二日姿を見せなかった事が。だから、さほど心配する必要はない、とは思うのだが、菊子さんの件があるから、つい嫌な想像をしてしまう。

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