Eternal Silence

12.治療放棄-海斗-






腕の点滴が始まって以来、
どうも体調がおかしい。



吐き気が強くなって、
一日に何度も、
洗面器に顔を向ける。




食事すら、
今ではまともに食べられない。





俺が吐くたびに、
看護師さんたちは慌てて来て
ケアをしてくれる。




まぁ、ラスボスが
気がついてくれることが多いか。





落ち着いたら、
新しい洗面器を置いて、
使い終わったそれを片づけてくれる。



熱の方も一向に下がる気配がない。



毎日繰り返される、血液検査も
わけわかんねぇ。





『ここに居る方が動けなくなる』




次第に、俺の中で
そう思う不安が大きくなっていく。





明らかにおかしいだろ。



入院してんのに、
状態が良くなるどころか悪化してるんだぞ。




こんなの何時、店に戻れるか
わかんねぇだろ。





肝臓壊したおふくろ一人に、
店の責任背負わされるかよ。





体をゆっくりと起こすと、
腕の針を引きちぎって、
ベッドから立ち上がる準備をする。




ここに来て使うことすらなくなった足の筋肉は、
すでに衰えて……
今までのように膝を駆使して歩くことなんて
許してくれない。




膝を痛めた右足を引きずるように、
ゆっくりと病室を抜け出すと、息を潜めるように
非常階段へと隠れる。




その階段を一段一段這い上るように、
屋上を目指していく。




その途中、
自販機で煙草を買うのを忘れずに。




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