もう一度、君と…。
「じゃあ、分かりました。暁って呼ばせてもらいます」

「おう!そーしてくれ」

そういえば、恋羽は何を交渉しに行ったんだ?

「…恋羽は何を交渉に?」

俺はチラリと恋羽を見る。

黒い笑みで向こうの主将と話してるけど…。

「…嗚呼、アレね?恋羽直々に勝負してやるって言いに行ってるんだよ」

ニコニコと笑いながら、暁は恋羽のことを眺めている。

はいぃ!?

何!?

直々に勝負してやるっ!?

それを普通に暁は言ってるけど!

不安要素たっぷりじゃねぇーか!

俺はチラリとまた恋羽を見る。

そこには口元だけをあげている恋羽がいた。

…まただ。

俺はあの口元だけをあげて笑う恋羽を見ると…安心する。

その時はなんの心配も要らないから。

その時の恋羽が失敗したことなんてない。

「…今の恋羽なら誰も勝てないですね」

俺は恋羽を見つめて思った。

恋羽は凄い。

何の不自由なく…淡々とこなす恋羽。

那智が中学生の時に言ってたっけ?

『誰しも何かと弱点がある』

『それは人それぞれ違うけど、その人にとったらその人の中で一番厄介なものなんだよ』

そーだよな。

きっと恋羽は……愛してくれる人が弱点なんだ。

一人で平気。そう言う雰囲気で淡々と笑う。

…そんなの真っ赤な嘘。


一人をもっとも嫌うのは…………恋羽、君だよ。


俺はフッと笑って、暁に言う。

「…恋羽のことをよろしくお願いします」

俺は普通礼をして、恋羽に近付く。

「…怪我させてみなよ。私はそんな言い訳は受け付けない」

口元だけをあげている恋羽を後ろから抱き締めた。

すると、その表情はすぐに消えた。

驚きの顔が振り向いた。

俺は柔らかく笑う。

すると恋羽も…一瞬戸惑ったものの、すぐに笑顔で溢れた。

「…慶ちゃん、大丈夫だよ」

あどけない笑顔がそこにはある。
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