悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~


「こんばんは。
 神威」


「何してた?」


「何してたって、
 お風呂上りかなー。

 姫様のお風呂の時間だったから」




アイツが姫様と呼ぶ少女が生まれて以来、
電話の度に、アイツの口から紡がれ続ける
姫さまと呼ばれる少女の存在。



ソイツの存在が正直、
面白くないと感じる俺が居た。



「桜瑛、今……居るのか?」

「居ないわ。
 もう21時回ってるもの。

 姫様は就寝時間よ」

「なら逢えないか?」

「えぇ、いいわ」



桜瑛の言葉を受けて、
早々に着替えを済ませると
久松に連絡を取って、
車を出させる。




夜のイルミネーションが
輝く街を抜けて、
車は山の中にある細い道をひたすら
走り続ける。




そして自宅マンションから走り続けた先に
秋月がおさめる、不思議な村が姿を見せた。



一年中、秋の香りが漂い続ける村。




秋月の本家前、ゆっくりと止めた車に
着物姿のアイツが
小走りに走るように駆け出してきた。



久松が運転席から降りて、
後部座席のドアを開けると、
滑り込むように、
両手を首に回して
車内に入り込んできた。




「……神威……。

 逢いたかった……」




そんな言葉と同時に、
自らの唇を重ねるアイツ。


車内に響くリップ音。




久松は、そんな俺らを
気にすることもなく
ゆっくりと車を走らせはじめた。





ようやく再会のキスを終えて、
アイツは慌てるように
俺から距離をとって
視線を外に向けた。




「何かあったの?

 神威が突然電話してくるなんて」




俺に視線を合わせないままに
呟く桜瑛。



「……別に……」



逃げ道のような言葉で返事を返した俺に
桜瑛はサラに言葉を続ける。

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