悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~


隣の息遣いが安定した頃、
アイツは呟くように吐き出した。




「雷龍……とてつもない力だな」



その言葉で、あの雨を齎して一瞬のうちに
闇を霧散させた存在がご神体の力に寄るものなのだと
すぐに理解できた。



「降ろせたんだ」




自分の意思でおろすことが
出来ないのはまだ未熟な俺だけかよ。



責めるような気持ちが
俺に闇を抱かせる。




「俺の力じゃないさ。

 全部、兄貴が……お前の親父が
 仕組んでいったことだ。

 俺は今も兄貴に守られているに
 過ぎないんだよ」



そう呟いた飛翔の声は、
いつもと違ったトーンで弱々しかった。




「なぁ……。
 飛翔にとって俺の父さんってどんな存在?」



前々から気になっていた言葉を投げかけた。



父さんを少しでも知ることが出来れば
俺は……俺を許せるようになるだろうか?




「兄貴は大きすぎるヤツだったよ」




そう切り出した飛翔は、
俺が知ることがなかった、
アイツの事をゆっくりと語りだした。




飛翔もまた徳力の生神の制度に
苦しめられた一人なのだと知った。




飛翔が両親を失ったのは幼稚園の頃。



両親がなくなった翌日、
父さんが当主として今の俺のように、
一族の長に就任した。



俺の親父はまだ幼い飛翔を徳力本家から遠ざける為に
分家の早城家へと養子に出した。




飛翔は両親だけでなく兄である父さんにまで
必要な存在ではないのだと自分のことを責め続けて、
荒れ続けて過ごしたらしい。



だけど……大人になって、
父さんに自分が守られていたことを
知ったのだと話してくれた。



父さんから託された護符を通して
俺が雷龍を臣におけるその日まで、
父さんが残した力を媒体に自身へと繋げて、
雷龍を何度か俺を守るために降ろしたこと。




父さんの力を媒体にして初めて雷龍と繋がった時
今の俺と同じように、カムナと呼ばれる黒い影と向き合ったこと。




父さんは飛翔を養子に出したその日から、
こうなる運命を予測していた。




そして飛翔は、反発しながらも
その父さんの掌でずっと転がされ続けていたのだと
悔しそうに語った。




初めて聞いた飛翔の過去。




同じような痛みを抱いたアイツだから……
あの日、俺を狭い世界から救い出してくれたのだと感じた。



語られる飛翔の言葉。

それに寄り添うように
俺の中に伝わってくる飛翔の痛み。

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