悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~

16.御霊分の夜



「支度をしてくる」




静かにそう言った飛翔は社から一人、部屋を後にした。


俺は残された社の中で、
一人、自身のカムナと向き合っていた。



俺の根底にある罪悪感。




それを浄化するのも許せぬと留め置くのも
全ては俺一人の心次第。




許せぬと留め置き、自らを戒める痛みが残れば
俺は父の事も母の事も忘れることはない。



幼すぎる別れもその痛みが俺に
その温もりを教えてくれる。



それ故に……手放すことが出来ぬ痛み。




一族を継ぐという事は……
その痛みを手放すという事。




自身を解き放つと言う事。
解放するという事。





言葉ではそれを理解した。



だが、何を持ってして
雷龍にそれを『解放』だと証明する?



解放とは何を意味する?



社の床に一人、座禅をしながら
自身と向き合い続けていた。




「神威君、飛翔」



そう言って姿を見せた後ろには由貴先生の姿。



俺と同じように白装束を身に纏い、
禊を終えてきたらしい飛翔は、
そのまま俺の隣に座った。




「こんばんは。

 徳力って言う家は、
 本当に何処までバカなんだろうね。

 自分を犠牲にして、こうやって何かを
 成し得ようと必死にもがいて。

 私が何を言っても、
 飛翔が一度決めたことを覆すことは
 出来ないから。

 だから強引に来てしまいました。
 飛翔が決めたことを見届けに。

 邪魔はしません。


 ただ……私にしか出来ない後のことは、
 せめてさせてください」




そう言って由貴先生は、
部屋の片隅にゆっくりと正座した。

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