悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence


「遅いっ」


電話に出た途端に、
不機嫌そうな飛翔の声が聞こえる。


「飛翔、遅いって何?
 私も……朝は忙しいんですよ。

 今、時雨のご飯、作ってるんですよ。
 今日、私の食事当番なんで」

「悪かった」

「それで飛翔、何か用ですか?」



時間はまだ9時前。


早い時間に電話をかけてきて、
遅いと怒鳴った理由はそれなりにあるはずだと思いながら問う。


「悪い。
 今から用事が出来た。

 午後の鷹宮、キャンセルするから
 勇たちに言っておいて」

「用事って何かあったんですか?」

「TV」


短く告げた飛翔の言葉に、慌ててキッチンから少しでて
テーブルにあるリモコンでTVの電源をいれる。


映し出されるは大雪で家屋が倒壊した映像。





『今回の大雪による災害の被害にあった斎市は、
 昨年の市町村合併で近隣の郡と合併して誕生した市です。

 合併した市町村を申し上げます。

 田丸郡。田神村。安倍村。
 月ヶ瀬郡。春日郡……

 以上の市町村が……』




そんな映像を背景に、
ニュースキャスターの声が淡々と響く。


その中で一つの地名が耳に残る。



「安倍村?……。

 飛翔、安倍村って確か……」

「あぁ。
 悪い、少し行ってくる」



飛翔はそれ以上説明することなく、
電話を切った。



「由貴、どうかした?」



お風呂から出てきた時雨は、
バスタオルで髪を乾かしながら、
リビングのTVを見つめる。



「凄い雪だな」

「えぇ……。
 斎市の中には飛翔の故郷も入っているそうです。

 今、連絡があって今日の鷹宮は行けないと連絡がありました。
 多分、安倍村に行くのかもしれません」

「だが、行くって言ってもこの状態だろ。
 安倍村の元住人って言っても、飛翔は一般市民だろ。

 災害真っ只中の現場に入れるか?」


そう言った時雨の言葉ももっともで、
私は中華粥を鍋から茶碗によそってテーブルに置く。


「由貴、飛翔のことは気になると思うけど
 今は朝食。

 職場に行ったら俺も情報収集に努めるから。
 とりあえず今は食事」


時雨がそう言うと、
TVの電源をリモコンでオフにした。


このままつけっぱなしで居ると
私自身の精神状態が不安定になっていくのを
幼馴染の時雨にはお見通しだから。
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