悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence



「時雨、勇を呼んできてもらえますか?」


そう声をかけると、
時雨はすぐに総本家までの道程を走りだす。

時雨が勇を呼びに行っている間に、
飛翔の下で倒れる神威君にも触れる。 




意識を失っているのは確認できるものの
それ以外の、影響は今はわからない。



「由貴、裕兄さんまだ居たよ」



そう叫ぶ勇の後ろには、
担架を手にしてかけてくる裕さんと時雨。



「氷室、状況は?」


「バイタルは落ち着いてます。

 眠ってるだけのようにも感じるんですけど、
 飛翔はあちこち、暴行の後も見られますし、
 神威君にいたっては洗脳されていたのかこちら側の声が
 何も聞こえないような状態で」



感じたままに告げる私に、
裕さんは不思議そうに紡いだ。



「氷室、二人とも眠ってるだけみたいだね。
 早城の方も外傷はなさそうだね」



慌てて飛翔の体をマジマジと見つめると 
何一つ、外傷はない。


打ち身はおろか擦り傷一つ見当たらない。 



「裕さん……。
 
 さっき、不思議な体験したんです。

 医学的立場から行くと信じられないような
 現象で今でも……信じられないんです。

 二人の上だけに黄金の雨が降り注いで
 神々しい龍が現れて……二人の中に、
 吸い込まれていきました」



あの時、見たままに紡ぐ言葉。


紡いでいる傍からも今も信じられない思いは
消え去ることはない。





「世の中には……医学的根拠だけでは
 説明できないことも多々起こるんだよ。

 特に、この徳力。
 そして……後二つ。

 生駒と秋月。

 どの一族にとっても、神前は専属医を担っているけど
 いつも驚かされてばかりだよ。

 三つの一族を守護するご神体は龍と聞くから。

 氷室が見たものはもしかしたら、
 ご神体だったのかも知れないね。


 ご神体の龍がもたらす慈愛の雨。

 
 二人を思う、誰かの心の琴線に触れて
 奇跡が起きたのかな?

 私たちには計り知れない何処かに存在する
 大きな力のもとに」



しみじみと紡がれた裕さんのその言葉を受けて 
思い描いたのは……飛翔のお兄さん。


最愛の弟と最愛の息子。
二人が心配でたまらなかったのかな?

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