悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence



慌ただしそうに病室を出ていこうとする裕さん。


「裕さん、すいません。
 華月と、生駒の神子は?」

「二人とも君たちよりも早く意識は回復してる。
 生駒さんに関しては詳しく話せないけど、
 近日中に退院予定。

 華月さんに関しては、全治二週間。
 退院まで神前で治療予定」



退室間際、必要な情報だけ最低限教えてくれる。



その日、一足先に俺だけ神前を退院して
経過観察先を鷹宮へと移動させる。



勇の運転で鷹宮に帰った途端、
嵩継さんをはじめとして、皆が一斉に俺を迎え入れてくれる。


医局に顔を出して一通りの挨拶を受けて、
母さんの病室へと向かうと、
そこには水谷さんが母さんの話し相手として顔を覗かせてくれていた。


「ただいま」


一言呟いて顔を出すと水谷さんも
「早城君、お帰りなさい。いい顔してるわね」っと言葉を添えて
病室を後にする。



「飛翔……今までどうしてたの?」

「神前で眠ってたらしい。
 神威はまだ神前で眠ってる。

 俺だけ先に意識が回復したから、
 一足先に戻ってきた。

 母さんに顔を出したかったしな」


そう言ってベッドサイドに座った俺を、
体を起こした母さんは、両手を伸ばして抱きしめてくる。


こんなにも小さかったか……。




今ではとても小さく感じる母さんを慈しむように抱きしめなおす。




「今日は隣に居るよ。
 まだ経過観察とかで仕事には戻れないんだ。

 明日、また神前に顔を出すよ」



そう言うと、
母さんの隣の簡易ベッドに再び体を横たえた。



翌朝、病室には勇が鍵を手にして現れる。


俺の掌に置かれたのは、
総本家に置いたままのはずの俺の愛車の鍵。


「総本家にとめてあった飛翔の車、
 僕が借りて乗って帰ってきたんだ。

 行きがヘリに同乗させて貰って来たから、
 帰りの足もなくて、勝手に借りちゃった」

「悪かったな」

「車ないと、神前にもお見舞いに行けないでしょ。
 お父さんからの伝言で、飛翔の研修再開はGW明けって。

 それまでは体を休ませて、やるべきことをしなさいってさ。
 今日こそは、目が覚めてるといいね。

 由貴がついてくって、張り切ってたよ」



勇は院長からの伝言と鍵を持って訪ねて来た後、
母さんと朝食を済ませて、そのまま病室を後にする。



鷹宮から神前へ。


神前の病室、まだ眠り続けている神威のベッドの傍で由貴と
会話しながら待っている、モゾモゾと動き出す神威。


寝ぼけているのか、
もぞもぞと動いて神威が体を起こす。



「目が覚めたか?」

「……覚めた」

「そうか」



相変わらず続きようがない会話。
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